
春にゃ花見に舟遊び、祭や花火に忙しく夏は過ぎ、月や紅葉を愛でながら秋を楽しみ、春を待ちつつ冬支度。まったく江戸の一年は行事に事欠かねえ。季節の変化があるってのは、ありがたいもんだ。移ろう季節ごとのお恵みを頂戴できる。しかし、冷暖房やら気の利いたもんやテレビやカラオケといった娯楽もなかったその昔、不便なことだって山ほどあった。そこで、季節の変化やそれに伴う衣食住の変化を楽しむコツってのを、人々は考えた。それが歳時記ってやつだ。不便を楽しむなんざ、やせ我慢といわれりゃそれまでだが、見栄っ張りが江戸っ子の信条。弱音を吐かない潔さが粋ってもん。見栄張りゃ、お茶や沢庵だって酒や卵焼きに思えてくるのさ。夏の暑さだって、チリンと風鈴がひと鳴りすりゃ涼んだ気になる。金を使わず頭を使って不便を楽しむ生活のコツ、そんな歳時記を2回にわたってはなそうかね。今回は春と夏だ。
四月朔日(ついたち)の衣替えで着物が綿入れから袷(あわせ)に変わり、春めきつつある空気の中、心も体も軽くなる頃。見栄っ張りで気の早い江戸っ子は、初物を求めて奔走した。最たるものが「初鰹」。勝魚、松魚とも書く縁起の良い魚の初物を食わなきゃ江戸っ子がすたるってもんだ。初物を食べると七十五日長生きするといわれ、皆こぞって初物食いに夢中になったが、鰹は別格。七十五日の十倍、七百五十日も長生きできるともてはやされた。河岸で待ってたら先を越されるってんで、舟を出す輩も出る始末。沖の漁船に小判一両投げ込むと、鰹一本を投げ返してくれるのさ。しかし、陸に上がると下手すりゃ一本三両に値段が跳ね上がる。宵越しの金は持たない江戸っ子とはいえ、さすがに庶民にゃ高嶺の花だったようだ。
7月に入ると、一日の山開き、六縲恃ェ日の朝顔市、七日の七夕、九縲恟\日のほおずき市、十五日のお盆など、行事が目白押しだ。この日に詣でると四万六千日の功徳が得られるというが、一日参って百二十七年分のご利益たぁ、これいかに。一升枡の中には米粒が四万六千粒入る。つまり「一生のご利益」に通じるってんで、そうなったとか。ちなみに、昔は赤とうもろこしを雷除けに売っていたが、不作の歳に代わりになるものとして漢方薬として飲まれていたほおずきを用いたんだ。さて、今号はこれまで。次回は秋冬について話すから、楽しみにしていておくれよ!
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